夢追い芸人インタビュー
最大のライバルは弟。幼い頃から
抜群のセンスを持った弟と常に比較されてきた- 所属
- 太田プロダクション所属
- プロフィール
- 2016年1月結成。歌ウマ芸人の松尾侑治とジャイアンツ芸人の松原ゆいからなるお笑いコンビ
- 芸歴
- 7年目
- アルバイト
- ディスカウントストア店員
青春のほとんどを野球に費やしました
スポーツ経験者らしい爽やかな笑顔でそう語るのは、結成7年目のお笑いコンビ、ロングアイランドの松原。大阪府の強豪高校で甲子園を目指し、先日のWBCで日本代表として戦ったスターを擁した甲子園常連校に勝利したこともある。大学でもプロを目指して毎日グランドで土にまみれた。
彼の最大のライバルは弟だった。幼い頃から抜群のセンスを持った弟と松原は常に比較されてきた。
「大学を出てプロ入りした弟と比べたら、才能がないことは気がついていました。幼い頃から兄貴はダメだと言われたのがトラウマになってるんですよね」
高校、そして大学。野球を続けていればどこかに居場所があった。だが、大学4年になり、野球選手になれないという現実を直視せざるをえなくなったとき、松原は焦った。
教員、会社員、飲食店。おそらく野球以外の選択肢は無限にあったのだろう。だが、どれを選んでいいのかわからない。苦悩の末、松原が選んだのはお笑い芸人だった。
「野球選手にはなれなかったけど、せっかくなら楽しい仕事に就きたいと思ったんです」
野球に打ち込んでいた頃から、仲間を笑わせるのが好きだった。みんなが笑ってくれると幸せな気持ちになった。どうせ野球から離れるのなら、まったく新しい人生を歩み始めるのも悪くないと思った。
アルバイト先は目の回るような忙しさ。我慢強く真面目な性格が重宝されている
松原は自分自身を我慢強い性格だと思っている。
「長男だからかな。昔から常に家の中で気を遣っていたので、我慢しちゃうようになったんです。野球部も上下関係が厳しかったから、多少理不尽なことでもグッと堪えてしまうんです」
我慢強く真面目な松原は、アルバイト先でも重宝されている。新宿にあるディスカウントストアで働き始めたのは2017年のこと。芸人仲間が働くことになり、松原にも声がかかった。
海外にも広く名を知られる有名店ゆえ、インバウンドの観光客が多く訪れ、レジ前が長蛇の列になることも珍しくない。松原の主な仕事は、商品の棚卸しに、レジの補助など。松原の担当するフロアは化粧品など観光客から人気の商品を多く扱うため、客足が途絶えることはない。
「海外からのお客様が戻ってきたので、目の回るような忙しさです」
店舗は24時間営業で、松原がシフトに入るのは、22時~朝5時。ターミナル駅近くにある巨大店舗ゆえ、多くの人員が各フロアに配置されている。
店員同士も頻繁にコミュニケーションを取る。お客さんの言葉がわからず困ったときは、無線でヘルプを呼べば、語学堪能な者が駆けつけてくれる。仲間が困っていたらすぐに助けてあげたい、そんな強い絆を感じるという。バックヤードでは常に笑顔が絶えない。店長や社員は松原の仕事に理解を示してくれており、急なシフト変更にも嫌な顔をせず対応してくれるとか。
「社員さんも兄貴肌の人が多くて、少し違うかもしれないけど、部室のようなアットホームな職場なんです」
昔は比べられるのが嫌だったけど、今ではいい刺激をもらっている
芸人になって7年が経った。昔と変わったのは、ダメな自分をさらけだせるようになったことだ。
「昔から肝心なところがだらしないんです。酒を飲んだらネタづくりも面倒になるし、歯を磨かずに寝ちゃったり」
努力こそ美徳とされる野球部にいた頃は、弱いところを見せてはいけないと思っていた。だが、お笑いは自分のダメさを受け入れてくれる世界だ。人間の弱さを笑い飛ばす強さがお笑いにはあると知り、ますますお笑いが好きになった。こんな自分を受け入れて、さらに応援してくれる人がいることに驚き、もっとこの世界を極めたいと思うようになっていった。
2年前、弟がジャイアンツの主力として活躍するようになったタイミングで人気番組「アメトーーク!」から、現役選手の兄としてゲストに呼ばれた。
「昔は比べられるのが嫌だったけど、今ではいい刺激をもらってます」
芸人として目指すは2割打者。たまにバットに当てたら、全力でフルスイングしてスタンドまで運びたいと思っている。そして、野球選手の兄ではなく、ロングアイランドの松原として番組に呼ばれるその日まで頑張るつもりだ。
「お笑い芸人はね、野球選手と違って引退がないんです」
取材・文:キンマサタカ